和田くんが、そう言うと「ホラよ」とボクに缶コーヒーを放ってよこしました。同じクラスの和田くんと話すのは、これがはじめてでした。
 クラスの中でも和田くんは、ともかく目立つタイプでした。スラリとした長身で、女好きする甘いルックス。真中で分けた黒くツヤのある髪は、ちょうどアゴのあたりでそろえられ、ときどき顔にかかるその髪を無造作にかき上げる仕草は、男のボクでさえ胸がキュッとするくらいセクシーでした。
 部活はバスケ部で和田くんは、キャプテンでした。バスケだけでなく、スポーツは何だって得意でした。だから毎年秋に行われるクラス対抗の球技大会では、和田くんはいつもヒーローでした。
 その上、成績はいつもトップクラス。外見は多少不良ぽっく、とてもガリ勉タイプには見えないのですが、中間、期末テストで張り出される学年の成績順位では、3位以下になったことはないようでした。ちなみにボクの学校は全国でも有数の進学校。この学校で50位以内に入ることは東大進学以上に難関と言われているほどでした。
 クラス中の、いえ、学校中の女生徒にとて和田くんは憧れ。でした。
 毎朝のゲタ箱には、入りきらないほどのラブレターが詰め込まれ、休み時間ごとに和田くんに告白に来る女生徒の列は、校門を出、近くのバス停まで続きました。
 バレンタインデーの日などには、大げさでなく、和田くん専用の運送トラックが校庭に集合し、その様子はまるでドライブインでした。ですから当然そこに集まる女性、見物客をあてこんだ出店が軒を連ね、中にはヤクザまがいな風俗店までが出現し、治安の悪化を恐れた警察は街に異例の戒厳令を発行するほどでした。
 この騒ぎは、全国はおろか世界中に報道されました。アメリカの経済誌は、この事件をトップ記事として扱い、いづれ、この少年のモテぶりが世界の産業革命以来の経済効果をもたらすであろうことを告げました。
 このため一時、日本の株式相場はかってないほどの変動を起こしました。
 全国の主婦たちは我先にとスーパー、デパートへと押し寄せ、何故か、毛糸と革靴を買い占めました。これが、「ドル・ショック」「オイル・ショック」と並び称される、あの有名な「ワダ・ショック」です。
 いまでも駅の公園には、当時のフィーバーぶりが分かる、等身大の純金和田像がほほんえんでいます。

その和田くんがまさか・‥…。
  -つづく-

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