「ほおー女子大の先生ですか。それはうらやましい限りで」
誰もが私の職業を尋ねると、そう声をあげ、羨望とも嫉妬ともつかぬ眼差しを送り返してくる。最初の方こそ「いえ・・・そんなこと」と殊勝な態度を取ってきた私だが、最近ではもう慣れた。無論、その後、彼らがきまってクチにする常とう句
「では、ウハウハですな」
に対しても同様、単なる辞礼として受け止め、冷静な対処で彼らの好奇心をかわす行いを身につけた。実際ここで少しでも表情を緩め、照れ笑いなどを浮かべると、もうおしまいなのである。その照れ笑いの真意をめぐって野卑な質問が矢つぎばやに押し寄せてくる。
「最近の若い娘は、ススんでますからなあ・‥」
はじめは無縁な世相と笑い飛ばす彼らだが、結局無関心ではいられないのだろう。ネチネチと私に同調を求め、それでも私がその話題に乗らないとなると、今度は一転、マユをひそめ、こう切り出す。
「アンタ、独身なんでしょ?」
そう言いながら、タバコに火を付け、私をにらみつける様は犯人に自白を迫るベテラン刑事さならがである。おだて、すかし、せまり、はぐらかす・‥、あらゆる手段で自分の下心を満足させる答えを引き出さそうと躍起になる。 中には額を床にこすりつけ泣いて悲願する者もいれば、「やったんか!! コラァ!!」と胸ぐらをつかみ部屋中私を引き回したあげく、殴る、蹴るの暴力行為、血だるまになり気絶した私を監禁し、とうとう刑事処分を受ける者さえ出る始末である。
ちなみにその時、拷問として逆に折れた左手の小指はいまだに曲がったままになっている。
では、それほどまでに世の男性たちが、ねたみ、うらやましがり、時には今の生活を捨ててさえ知りたがる女子大の教授の実態とは一体いかなるモノであろうか。当の本人であるこの私があえて一言で表現するならこうだ、
「無論、ウハウハである。」
まさしく、この一語に尽きる。女子大教授の毎日はウハウハウキウキのパラダイス・エブリディなのである。ムフフフ考えても見て欲しい。人並みはずれた才能があるわけでもなく、アイドルタレントのような容姿を持っているわけでもない、ごくごく平凡ないち男性が毎日、若く、美しい女子大生たちに囲まれ「先生、先生」とチヤホヤされる職業が他にあると思えるだろうか。(しかもタダで!!)(否!! お金までもらえて!!) その上、私の通う自己完結女子大は全国でも有数の「お嬢さま大学」なのである。無菌状態の上流階級で育った子女たちとっては、私のような平凡な男性さえも、若いというだけでいわゆる「ハンサム」に映るらしいのである。
その証拠に、決して、毎日というわけではないが、私はかなり頻繁に「告白」らしきモノを受ける。また、そうでなくとも、誰々が私に好意を抱いているらしいといった学生同志のウワサ話をよく耳にする。一般の会社に勤めるサラリーマンでは、まずありえない状態が平然と当たり前のように常識として、なんの変哲もなく、朴とつと何ら、神秘性もなく、あっけらかんと、こともんなにげに、無料で毎日続くのである。 これが、ウハウハで無いとすれば一体、何がウハウハであろうか。これぞウハウハ、ザッツ・ウハウハ・・・、ウハウハブロードウェイ、遂に日本上陸!! 〜ウハウハロングラン中!! 〜(チケットはお早めに)なのである。ムフフのフ〜ン つづく
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