CONTENTS
はじめに
今回の「知ってどーなるの?」は、“バーチャルドラッグソフトウェア”という言葉の定義から始めたい。この言葉は一般的な用語ではないが、ある一群のソフトをこう呼んでみることで見えてくる何かがある、という荒っぽい議論をしてみたい。
パソコンは主にシミュレーションを行うマシンだ、と言う人もいる。シミュレーションとは、現実の一部をコンピュータ上で再現し、そこに論理性や仕組みを発見するために、もしくは、何かをデザイン=設計したものがあれば、それをまずコンピュータ上で動かして、現実に作る上での諸条件をあらかじめ知ることができることだ。ゲームでも、都市のシミュレーションを実現した「シムシティ」や鉄道のシミュレーションを実現した「Aトレイン」などがある。
このような現実本位のシミュレーションもあれば、一方では人間の知覚をシミュレートしたり、知覚を刺激するためのインタフェースをパソコン上で行うようなソフトウェアへの関心も少なくない。ここでは、“バーチャルドラッグソフトウェア”を、右のように定義したい。
|
ユーザーは見ているだけで画面が綺麗だと思うだけのものではなく、音やマウス操作などのユーザーからの入力に反応するもの(したがって、Mandelbrot、Julia集合などのフラクタル系のものはここでは基本的には言及しない)。 |
その昔、「イーヴァ(IBVA)」という脳波(α波)を画面で見せるマック用の楽しいソフトがあったが(現在でも購入可能だが、PC上で動く「BrainTracer」が新しい)。 |
こういうソフトに機種やOSの文化が見えてくる
“バーチャルドラッグソフトウェア”の性格上、話はマッキントッシュ及びアミガ上で動作するソフトウェアに集中してしまいがちだ。この記事はソフトウェア本位に考え、機種やプラットホームを問うためのものではない。
その代わりに、比較的容易に入手できる各種エミュレータソフトも紹介したい。つまりマックを持っていなくても、Windows 95マシンやAMIGAを持ってさえいれば体験することができるということだ。OpenGLなどのグラフィック・ルーチンを搭載したOS(Windows NTや95、BeOS)は、まだ文化が成熟していないようである。他機種やOSからの移植ものなど若干あるにすぎない。
|
マックでの進化
初めてのカラーマック、Macintosh IIが1990年発売されると、カラーパレット切り替えを多用するビデオドラッグものが徐々に商用ネットなどにフリーソフト、シェアウェアとして出回り始めた。この時期はまだ、(BASICプログラム的な!?)カラフルな丸や四角、ラインなどが画面に表示されるだけのものがほとんどだった。
ロック・ミュージシャンのトッド・ラングレンは、“MUSIC FOR YOUR EYES(目で見る音楽)”をスクリーンセーバーという手段で提唱した。当時はとても斬新だった。羽が生えたトースターが画面を飛び回るスクリーン・セーバーの定番となった「After Dark」には、「SATORI」というトッド・ラングレンっぽいコンセプトのモジュールも含まれていた。
このあと、単純に画面が変化することを楽しむソフトと、マウスの動きやクリックにあわせて、画面が変化するソフトも少しずつ増えてきた。一部のユーザーは、自分の好みの音楽をCDなどでプレイしながらマウスを動かすことにおもしろさを発見した。現在ではCD-ROMドライブを搭載した機種も増え、目と耳、つまり脳の近くで楽しむソフトが開発される環境が整ってきている。
海外では、BBSやインターネットで流通するフリーウェア、シェアウェアが、バーチャルドラッグソフトウェアの舞台となっている。日本では2本の市販ソフトウェアがこの種類の代表作となっている。
また、定義したようなバーチャルドラッグソフトウェアの最高峰と言えるソフト「Bliss Paint」もマック出身だ。MIDIやサウンドファイルやマイクからの入力にも対応し、マウスの手応えもいい。テンプレートの数も半端ではない。
|
■Flowfazer 90年にミュージシャン、トッド・ラングレンが開発したスクリーンセーバー。現在は入手困難。
|
■マックOSの画面(通称はファインダ)
|
アミガOSとマックOSでの顕著な差異
アミガ・ユーザーたちのアプローチは、マック・ユーザーとは少し違う。マックの場合は、OSそのものの性格からくるのか、好きな音を入力したり、マウスを動かすことにより、ユーザーが達成感を味わうように作られたものが多いのに比べ、アミガの場合には、ユーザーの達成感というよりもすでに作られた作品として提示してくるものが極めて多い。
その他、専用のインプット・デバイスを製作したりすることにも余念がないものが多い。この違いは、イースターエッグなどと呼ばれる隠しコマンドがやたらに多いマックOS、そして、LISA、デニス、ポーラ、アグニスなどと人名がつけられた、それぞれ性格を持ったグラフィック・エンジン(AGAチップ)とどう付き合うか(どう戦うか、または、どう使いこなすか)的な、無意識にもユーザーに対して訴求するOSの性格が理由の一部になっているのでは、という気になってくる。
Windows(95 & NT)は、このように考えるとどのような性格をしたOSなのだろうか。OSの稼働率が高いだけに、性格を持つようになるまで多少時間がかかるのかもしれない。
|