1.1984年〜1990年
 1984年、彼女はにっかつ映画「イヴちゃんの花びら」で、スクリーンに登場する。風俗のアイドルとしての人気から、ビデオ、映画などへの進出、という事実自体は、別にどうでもいいことだ。大事なのは、ここから、女優神代弓子という存在が始まったこと。いかに、その存在自体が「女優」である彼女とはいえ、女優の仕事に就けるかどうかは、神のみぞ知ることだからだ。

 その後も「イヴちゃんの姫」「イヴの濡れていく」とにっかつ映画に主演。さらに「感度イヴ スプリングメモリー」(1984年)、「A〜EVE 私は子猫」など数々のビデオ出演をこなす。ポルノ映画以外でも「ロケーション」(松竹)や、「童貞物語」(東映)などに出演。女優としてのキャリアを作っていく。もっとも、この当時の彼女は、今思えば、現在の凄まじいばかりの色香の片鱗しか見せていなかったのだが。

 1985年にはフィリップスからアルバム「A〜EVE」、シングル「Non,Non」を発表。いかにもアイドルらしい活動を行っている。アイドルであった、という過去は、しかし彼女の、人を惹きつける能力をより磨くことになり、それが、その後の引退、復帰という、女優としてのハンデを克服する原動力になっている。つまりは、なるべくしてなったということだ。

 その後、プライベートな事情で彼女は僕達の前から姿を消す。同時に「イヴ」という存在も、この世から消滅することになった。その時は、まだ誰も、その数年後、神代弓子という希代の女優にして、男の夢の象徴が現れるということを知らなかった。

 そして1990年。かつて「イヴ」と呼ばれていたアイドルは、女優「神代弓子」となって帰ってきた。九鬼のビデオ「白濁の花園」は、彼女の、アイドルと呼ぶにはあまりにも蠱惑的な魔性を記録した記念碑的な作品となった。ただ、まだ、その当時は、どうしても作る側が彼女を昔のイメージで捉え、その真の魅力に気が付いていなかったのは、仕方がないことだろう。どこか、アイドル=少女のカケラを覗かせた演出や設定なのだが、しかし、彼女が確実に今の彼女となる第一歩を踏み出していることは、はっきりと見て取ることが出来る。