
とあるピンク映画監督の生涯を描きつつ、女たち、そして映画への愛と人生への讃歌に満ちたスペシャルな一編。俳優から監督に進出したベテラン池島ゆたかの監督第百一本目の記念作として企画され、全編がピンク映画に捧げるオマージュであると同時に濃密な愛欲編ともなっている。

老いたピンク映画監督の夕景は浜辺で「映画」と名乗る美しい娘と鉢合わせした。夕景の幻想の世界の中でのことだったが、彼女にはどこか見覚えがあった。次の瞬間、夕景は映画に導かれ録音スタジオにいた。そこには俳優の正午、女優の夜半、録音技師の釣音、助監督の両天、御前崎らがいた。それは随分前の光景だったが、老いた夕景には微かな記憶しかなかった。二階で誘われるままに映画と交わった夕景は昔を思い出した。
その頃まだ壮年期だった夕景は夜半と正午を使ってセックスシーンのアフレコ中だった。釣音がカットをかけると、夜半は最近ご無沙汰だとガラス越しの夕景に厭味を言った。夕景と夜半は長年夫婦同然だった。アフレコが終わると夜半は両天とホテルで密会した。嗅ぎつけた夕景が部屋に押し入り両天に殴りかかった。夜半は映画以外に何も興味がなく、結婚も考えない夕景を非難した。両天はヤケを起こしたように3Pを提案し、三人は絡み始めた。両天のあとで夕景が夜半の中で達すると、両天は満足そうな二人を残して静かにその場を去った――。
再び浜辺。咳き込みながら歩く夕景はまたしても映画と鉢合わせした。すると今度は青年時代の思い出が蘇ってきた。夕景は小さな劇団に所属していたが、芝居が下手で演出家に怒鳴られてばかりいた。ある夜、夕景は同じ劇団員の東雲と町で会い、彼女をアパートへ招くと本当は映画監督になりたいのだと夢を語った。やがてふたりは熱く愛しあった。それ以来、ふたりは同棲を続けた。
東雲がバイト先の客とも付き合うようになったので夕景は東雲を責めた。東雲は夢みたいな事ばかりを言う夕景には未来がないと反論した。夕景は東雲を乱暴に抱き、結婚しようと言うが、東雲は客と結婚するつもりであることを告白した。
数年後。AV男優になった夕景はAV嬢の夜半が生意気なので彼女を罵倒し、監督に下ろされた。ふたりは控え室で仲直りしてセックスし、夕景は一緒に映画を作りたいと東雲に言った。二人の姿を監督は盗み撮りした。東雲もグルだった。
壮年に達した夕景は海辺にいた少女に目を奪われ、自分のピンク映画第一作の主演女優に決めた。それが映画だった。夕景が映画のシナリオを書き上げると、映画から助けを求める電話がかかってきた。夕景がラブホテルに着くと売春相手の客に金を奪われた映画が死んだように横たわっていた。夕景は映画が生き急いでいるように感じ、映画の中でその理由をさぐろうとした。夕景と映画は強く求めあった。映画は夕景の精液を飲みたいと求めた。生きてる感じがするからだった。映画は貪るように彼の精液を飲んだ。そして海に行きたいと言った。夕景と映画が出会った海。映画のアップ……それが夕景の初監督作品のラストカットだった。スタジオで作業を終えた釣音は完成した作品を褒めた。しかしもう映画はこの世にはいなかった。客とのトラブルで殺されたらしかった。その後売れっ子になった夕景は女優になった夜半と再会し、同棲をはじめた――。
とある病室。ベッドには年老いた夕景が意識不明で横たわっていた。傍らにはすでに五十代になった夜半がいた。そして東雲や釣音、正午、両天など、夕景の映画に関わった人々――。
浜辺を歩く夕景が転ぶと、目の前に白紙の台本が落ちていた。必死に立ち上がろうとする彼を支えたのは映画だった。夕景は映画が何故生き急いでいたのかを知るためもう一本映画を撮りたいと言った。ふたりだけの撮影がはじまった。
夜半たちに見守られた病室の夕景は微かな息で「ヨーイ」と口にした。幻想の中で夕景は「ハイ!」と叫んだ。その声とともに映画は浜辺を走った。夕景はその姿を目で追った……。