正田瑞穂………里　見　瑤　子
三橋麗子………佐々木　ユメカ
久保田まゆみ…吉　沢　明　歩
正田元義………岡　田　智　宏
太田光男………千　葉　尚　之
大河原元………川　瀬　陽　太

監　督……深　町　　　章
企　画……福　俵　　　満
脚　本……深　町　　　章
撮　影……清　水　正　二
編　集……酒　井　正　次
録　音……シネ・キャビン
助監督……佐　藤　オサム
スチール…津　田　一　郎
現　像……東映ラボテック

戦後間もない混乱の時代を背景に、没落していくとある旧家にまつわる愛憎を、ベテラン深町章監督がしっとりと描き出した濃密愛欲編。里見瑤子、佐々木ユメカらベテラン女優とＡＶ、グラビアなど多方面で人気の吉沢明歩が豪華に共演。
戦後間もない昭和二十二年。宏壮な邸宅を構える元華族の正田家では、未亡人の瑞穂が亡き夫元義の遺影を見つめて涙に暮れていた。蓄音機からは神宮外苑学徒出陣壮行会の実況録音がきこえてきた。瑞穂は元義の遺影を前に自慰にふけった。
瑞穂のもとへ友人の麗子が訪ねてきた。かつて二人は元義をめぐって恋の鞘当をしたこともあった。麗子は元義を戦争で失いながらも強く生きている瑞穂を見て、何故彼が瑞穂を選んだのかわかる気がすると言った。麗子は若い光男という男を連れていた。瑞穂が彼のことを訊ねると、麗子は光男とは闇市の屋台で隣り合わせて知り合ったのだと話した。 麗子は正田家の二階の一室を借りた。光男がまたヒロポンの注射を打とうとしていたので麗子はとめた。光男はもうすぐ死ぬのだからと麗子に覆い被さりむしゃぶりついた。だが、何度も情交を繰り返したので、光男の逸物は疲れ気味のようだった。
正田家の門前に一目で成金とわかる大河原が現れた。大河原はかつて正田家の運転手をしていた男で、土地建物を買収するつもりだった。瑞穂にはそんなつもりは毛頭なかった。今は自分と女中のまゆみしかこの家に居ないが、元義の弟で戦犯として拘置所にいる裕輔が帰って来るはずだと言った。裕輔はまゆみと恋仲でもあった。大河原はＢＣ級の戦犯でも処刑されることがあると反論した。瑞穂は裕輔との面会のために出かけた。残った大河原はあと片付けをするまゆみに一緒にこの家を乗っとらないかと持ちかけ、強引にその肉体を奪った。
その夜、裕輔との面会から帰った瑞穂はまゆみに、彼が元気で彼女のことも気にしていたことを報告した。まゆみは裕輔が釈放されてきたら瑞穂はどうするのかと訊ねた。瑞穂は、そうしたら自分がこの家にいる理由はなくなると答えた。
出征前、元義はまゆみと裕輔の関係を知り、女中であろうと自由に恋愛できなければおかしい、そんな世の中になるまで自分は死にたくないと話し、瑞穂を抱いた。瑞穂が布団の中でそんなことを思い出していると、突然電話のベルが鳴り響いた。電話に出たまゆみは瑞穂の前で呆然と佇んだ。まゆみはやっとの思いで裕輔が死刑になったことを告げた。瑞穂は何も言うことができなかった。まゆみはあまりのショックに気を失った。
翌日。麗子は瑞穂のそばへ来て話をはじめた。ある夜元義が麗子のもとへ赤紙が来たということを知らせに来た。空襲警報が鳴ったので部屋の電気を消し、蝋燭の灯りを前に二人は酒を飲みながら色々なことを話した。灯りが消えたらなるようになるだろうと麗子は秘かに思っていた。だが灯りが消えても元義はただお喋りを続けただけだった。元義は最後まで麗子を裏切らなかった。麗子は瑞穂を逆恨みして目の前で死んでやろうと思ってここへ来たことを告げた。麗子の胸中を察し、瑞穂は話してくれてありがとうと言った。
麗子が二階に上がると光男がヒロポンを打っていた。光男は死ぬのを待つのは辛いのだと弱音を吐いた。麗子は私なんかと死ぬことないと光男を愛おしむように抱きしめた。光男は涙を零しながら麗子を求めた。二人は熱く愛しあった。
翌朝、麗子が目を覚ますと光男の姿はなかった。麗子はそれを承知していたかのように哀しげに笑みを浮かべた。麗子は瑞穂に別れを告げ、家を後にした。とりあえず生きてみようと、そんな言葉を残して。瑞穂は窓ガラス越しに敬礼して麗子を見送った。