温泉旅館ときわ屋の弘子は娘の夏希を女手一つで育ててきた。夏希にはボーイフレンドの真輔がいる。ある日弘子を訪ねてホストのノブがやってくる。ある人物から料金を前払いされているというのでつい弘子もその気になって一夜を共にする。そこへ夏希が意外な人物を連れてくる。それは二十年前に別れた夫の博で…。
　温泉旅館を舞台に、別れた夫との再会に揺れる女将の女心とその肉体の疼きを叙情味豊かに描き出す。しのざきさとみ、谷川彩、酒井あずさという世代の違う女優陣のそれぞれの色気が魅力の一編。

ある日のこと、温泉旅館「ときわ屋」を一人で切り盛りする女将の弘子の前にノブという若い男が客として訪れた。従業員のランは若くてカッコいい彼をすっかり気に入った。ノブは弘子に挨拶をすると、自分はある人からの依頼で来た出張ホストだと話した。驚いた弘子は娘の夏希の仕業だと思い込んで腹を立てた。はじめは拒否する彼女だったが、ノブの強引さに負け、夜中に部屋に来るよう言った。その夜、弘子の部屋にノブが入ってきた。ノブは少女のように恥ずかしがる弘子を優しく抱いた。翌朝、ノブはあと二日分の料金をもらっているのでいつでも呼んで下さいと、電話番号を書いたメモを渡し、弘子にキスして旅館を後にした。
弘子はノブから渡されたメモを一度は捨てたものの、やはり気になってゴミ箱から取り出した。そこへ夏希が帰ってきた。彼女はなんと二十年前に離婚した夫の博を連れてきた。夏希は借金取りに追われて大変な父を数日泊めてあげてと頼んだ。弘子はそれなら宿代を払ってと冷たい態度を取った。夏希は突然のことで母さんも驚いているだけだと博を慰め、家に上げた。
その夜、博の部屋では夏希とその婚約者の真輔を交えて酒宴となった。夏希は家に残されていた博のギターを持ってきて、弾いてくれるよう頼んだ。博はギターを手に歌い始めた。その様子を隙間から忌々しそうに弘子が見ていた。ランが入ったらどうかと勧めると、弘子は冗談じゃないという顔で立ち去った。
夏希は酒宴の席を抜け弘子の部屋を訪ねた。復縁して欲しいわけではなく、自分にとってたった一人の父を放ってはおけないのだと言う夏希だったが、弘子は一切面倒を見ないから勝手にやりなさいと言うばかりだった。部屋に戻った夏希は真輔に結果を報告した。真輔は自分が弘子に話した方が素直に聞いてくれるかもしれないと言うが、夏希は自分で何とかすると言った。お互いを思いあう優しい気持ちが高まり、二人はその場で愛し合った。
翌朝。博は調理場でランを手伝いながらはしゃいでいた。そして、ランみたいに若くて可愛い子を紹介してくれないかと一万円札を彼女に渡した。夏希が真輔を駅まで送るというので博も一緒に出かけた。弘子は仲睦まじいそんな三人の姿を忌々しそうに見ていた。

その夜博の部屋に、ミキと名乗る女が現れた。それは変装したランだった。博は早速彼女にむさぼりついた。そこへ弘子が博を訪ねてきたが、部屋の中から女の喘ぎ声が聞こえ、博とランのセックスを覗き見てしまった彼女は逃げるようにその場を離れた。博への憎悪がますます募る様子の弘子に夏希は何も言えなかった。 三十年前に旅の途中で財布をなくし途方に暮れていた博は、偶然通りかかった高校生の弘子に助けられ、それが縁で二人は結婚したのだった。しかし婿養子になった途端に博は浮気を始め、夏希が生まれて間もなく二人は別れた。博からそんな話を聞いた夏希は、もう少しお母さんの気持ちを考えてと父をたしなめた。 翌日、弘子は博の部屋に入り、ギターを持ち出して岩に叩きつけようとした。だが、どうしても出来ず、また部屋に戻した。その後、ノブが弘子を訪ねてきた。彼はお呼びがかからないので来てしまったと言った。ノブを帰らせようとするが、彼の強引さと自らの肉体の疼きに負けてその夜、彼の部屋で体を重ねた。満足した弘子か余韻に浸っていると、突然押入れから大きな物音がした。襖をあけると中に博が隠れていた。ノブを雇ったのは博だったのだ。弘子は博の心無い振る舞いを責め、涙を流した。博は何かを悟ったような表情で弘子に謝り、その夜のうちに旅館をあとにした。 翌日、夏希は博がもう長くない命で、その時間を弘子と一緒に過ごしたかったのだと涙ながらに話した。弘子は博の部屋に残されたギターを見つめ、博の後を追った。近くの公園に彼はいた。弘子は何処へ行こうかと考えている彼に旅館に泊まるよう勧めた。その条件として、弘子と別れてからの人生の旅の話を聞かせて欲しいと言った。金もなくて困ってたんだと軽口を叩きながらも博の目から涙があふれた。そんな博を弘子はわざと見ない振りをした。離れた場所から二人を見つめる夏希の姿があった。

監　督………深　町　　　章 企　画………福　俵　　　満 脚　本………河　本　　　晃 撮　影………清　水　正　二 編　集………酒　井　正　次 助監督………佐　藤　　　吏 録　音………シネ・キャビン スチール……津　田　一　郎 現　像………東映ラボテック

佐藤弘子……しのざきさとみ 森脇　博……なかみつせいじ 佐藤夏希……谷　川　　　彩 池上真輔……丘　　　尚　輝 ラン…………酒　井　あずさ ノブ…………高　橋　　　剛