データベースCD-ROMは
「使えない」のが当たり前。

TEXT by 納富廉邦

Damn! moonriders

発売元:株式会社メディアリンク
価格:8544円(税抜き)
MAC/WIN

 CD-ROMはデータベースには向いたメディアだ、という言い方は、比較的良く聞くし、それが正解だという認識が一部では流通している。確かに、もっとものようにも聞こえる。まあ、こういう発言の裏には、CD-ROMのゲームはコンシューマのゲームにかなわない、とか、マルチメディア・タイトルに面白いモノは無い、とか、アダルトだけでしょ、とか、そういう意味が言外に含まれていたりするのだけれど、この際、そういうことは置いといて、「CD-ROMはデータベースに向いている」という定義を検証してみる。
 「Damn! moonriders」というCD-ROMがある。知っている人は当たり前のように知っているが、知らない人は当然知らない、結成20年を越す老舗の日本のロックバンド、ムーンライダーズのこれまでの活動を収めたCD-ROMだ。その内容は、ちょっと凄い物がある。多少の抜けはあるものの、結成以来の全てのアルバム・シングルのディスコグラフィから、ライヴやセッション、ソロ活動などの記録、未発表曲やデモ、映像、写真なども多数収録した上に、未発表曲やライヴの音源を収録した音楽CDが二枚付いているという、まあ、ファンなら絶対買う、という代物だ。もちろん、私も購入した。さらに、今年度中に、それらのデータ(映像や音源は除く)をさらに詳しく調査した書籍も発売される予定だと言う。そして、私は思う。その書籍も買おう、と。多分、資料として、また、ムーンライダーズのデータベースとして「使う」のは、その書籍の方だとも思う。CD-ROMは、時々「見る」ことになるだろう。中に入っている映像や音を聞くために。でも、調べたり、確認したりという作業に、このCD-ROMを使うことは、まず無いだろう。つまり、データベースとしては「使わない」ということだ。さらに言えば、「使えない」のである。まず、欲しいデータに直接アクセスする方法が無い。年代別、アルバム別に並んでいたりするから、それらを検索するのは、そう時間がかかるわけではない。しかし、そこに書かれているテキストや写真は、コピーすることが出来ないし、モニタで読むのは面倒だし、何より、書き写すのに、いちいち、CD-ROMの画面と、ワープロの画面を行き来するのは面倒だ。ならば、本の方がいい。検索性にしても、たかだか一つのバンドの軌跡。索引だけでも十分なのだ。では、このCD-ROMがダメかというと、そんなことは無い。買って良かった、とつくづく思う。それは、私がムーンライダーズのファンだから。そして、このCD-ROMを見るのが楽しいから。何故楽しいかというと、ファンが満足するだけの出来だからだ。
 要するに、コレクターズアイテムなのだ。かつて、ピーター・ガブリエルのCD-ROMのレビューに「ファンでなくても、購入する価値がある」というような事を書いていた人がいた。また、この手の、アーティストものや、テレビ番組のデータベース(と言って売っているもの)などでは、時折、そういう表現が使われる。でも、それはウソだ。ファンしか買わない。そして、買うのはファンだったりマニアだったりするから、内容がチャチ、つまり収録されているデータがセコいと、文句を言う。買わない場合もある。そのへんを勘違いして、対象となるアーティストや番組を良く知らない人にも楽しめる工夫なんかをするCD-ROMがあったりして、バカじゃないの?と思うことがよくある。敢えて名前を挙げれば、「ルパン三世エンサイクロペディア」とか、「妖怪人間ベム」とか、「探偵物語」とか、「ゴールラッシュ」とか、ゴメン、実は今世間に流通している、この手の「データベースCD-ROM」の90%は、そういう代物だ。
 誤解は、データベースという括りから生まれる。何かデータが入っていて、それにアクセス出来るんだからデータベースだ、というのは、まあ、いいけど、でも、それがデータベースとして使われることなんか、殆ど無い。そこに気が付かないと、バカなCD-ROMを作ることになる。さらに、CD-ROMはデータベースに向いたメディアではないのだ、実は。デジタルデータはデータベース作成に便利だけど、それはテキストレベルでの話。例えば、阿佐田哲也の小説を全部一枚のCD-ROMに入れて、自由に語句検索が出来るようなものを作れば、それは阿佐田哲也論とかを書こうと思う人には凄く便利なものになる。正にデータベースと言えるような。でも、そういうのを普通はデータベースとは言わないし、テキストしか入っていないようなCD-ROMを市場に出すことは難しい。出しても、それを便利と思うのはごくわずかの人だし。でも、全ての人に必要なデータなんて無いし、それがどんなデータであろうと、それを便利に使う人は、仕事で使う人でしかない。それも少数。
 だから、通常データベースと呼ばれるCD-ROMには、様々なインターフェイスがくっつき、映像を入れて、写真を入れて、さらにゲームとかクイズまで入れたりしている。ね、そんなのデータベースのわけないじゃない。
 要するに、エンタテインメント作品なんだ。だけど、対象がマニアだから、データそのものも充実させなければならない。「Damn! moonriders」にしても、見たい映像にアクセスするのにゲームやったり、延々とクリックを繰り返したりしなくてはならないことが多くて、結構腹が立つ。でも、確かにデータは充実している。つまり、好きな対象のデータを「見る」という楽しみのための作品。そして、そういう視点で見るならば、この作品は名作とも言える。データベースとしては「使えない」のだけれど、それは「商品」としてのCD-ROMの宿命かも知れない。
 どうにかデータベースと言えるのは、例えば「セリエA選手名鑑」とか、種牡馬辞典とか、そういう種類のものだけど、でも、それも書籍で充分のデータ量でしかない。そもそも、「データベース」なんて、プロ以外には必要ないんだもん。だから、結局、まともに専門的なもの以外のデータベースはCD-ROMには向かない。普通言われている「データベース」は、だから単に、「情報」というものに過剰な価値を持たせてしまった現状に合わせたウソの広告なのだ。


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