素材ものは何故つまらないのか?
又は、これが素材の生きる道。

TEXT by 納富廉邦

「LIP TISSUE Vol.1」

発売元:
価格:
MAC/WIN

「男優に訊け!」

発売元:KUKIデジタルエンターテイメント事業部
価格:4900円(税抜き)
HYBRID仕様(MAC/WIN)

 既にあるビデオや写真を使って、CD-ROMタイトルを作る、俗に言う「素材もの」は、アダルトCD-ROMの世界では、しごく一般的なものだ。アダルトだけでなく、写真集ものや、映像ものなど、データの二次利用として、普通に行われている。それはそれで、例えば、新潮社の「新潮文庫の百冊」のように、省スペースになったり、インナーブレインの「ネイキッドアイ」シリーズのように、本やビデオという形では商品化しにくい作家の作品集を世に出す手段にするなど、それなりの意味があるものも多い。AVにしても、毎月大量に作られ、次々と消費されていくメディアだけに、旧作などの、もう見ることが難しくなった作品を見ることが出来たりして、素材もの、というジャンル自体は、悪いものではない。
 問題は、「あ、素材ものね」で済んでしまうCD-ROMが異様に多いということだ。そういう作品は、単にビデオ素材をそのままCD-ROMにしただけで、だったら、レンタルビデオ屋で、何本か借りてきた方がまし、と思わせる原因になる。さらに、その手の作品が異常に多いことから、「アダルトCD-ROMを見るくらいなら、ビデオの方がいい」と考える人が増えていく。悪いことに、それは正解だったりもする。映像を見たいだけなら、ビデオの方がいいのは当たり前だ。
 そこで、メーカーは考える(もちろん考えないメーカーもある)。そして、一つの結論にたどり着く。数あるビデオ素材の中から、テーマを決めて編集したものを作ろう、と。そうして、例えば、フェラチオシーンばかりを抜粋してCD-ROM二枚組に収めた「LIP TISSUE Vol.1」のようなタイトルが発売される。それはそれでいい。様々なビデオの中から、様々なフェラチオシーンを抜粋して一つにまとめる。その作業自体はOKだ。そういうタイトルは、ビデオでは発売しにくいし、フェラチオのシーンを見るのが大好きという層は確実に存在するし、CD-ROMなら、写真と映像を並列に並べて見せることも出来るから、素材のバリエーションも増えるし、制作コストもかからない。
 しかし、そうやって出来上がった「LIP TISSUE Vol.1」は面白くないのだ。これがビデオなら、それなりに面白かったかも知れない。ビデオマガジン的に、単にフェラチオシーンばかりが次々と写し出される、そんなビデオを見たいという人は多いかも知れない。例えそれが、既にビデオとして発売されたタイトルからの抜粋だったとしても。しかし、これがCD-ROMになると面白くないのだ。そして、その原因は、映像の二次利用だから、ではない、という部分に無自覚なメーカーが多いため、何故、面白くないか、何故、売れないかが分からない。そして同工異曲のタイトルが次々と発売されていく。何も、「LIP TISSUE Vol.1」が特別に面白くないということではないのだ。むしろ、この作品は、この手の素材ものとしては、それなりに健闘していると言って良いと思う。特に、収録された全てのムービーが、きちんとフェラチオのみで射精に至るというのは、姿勢として正しい。ただのフェラチオシーン、つまり、単にAVの中から、チンポを咥えているシーンを抜粋しただけの作品ではないのだ。フェラチオシーンを集める、その集め方に、作り手のポリシーのようなものを感じることが出来る。しかし、それだけでは、やはり面白くすることは出来なかった、というだけだ。
 惜しいところまでは来ているのだ。素材を集める、その集め方にこそ、素材ものの生きる道がある。しかし、ただテーマがあって、その中から選ぶというだけでは、単に、選ぶ人間の見識以外、何も無い。それだけの仕掛けでは、ビデオにかなわないのだ。そのことを「LIP TISSUE Vol.1」は、身を持って証明している。学校の中を歩き回り、それぞれの部屋に入ることで、ムービーや静止画像を見ることが出来る、というインターフェイスも、確かにマルチメディアっぽくはあるけれど、決して「面白さ」には繋がらない。お目当ての映像にたどり着くのに時間がかかるだけで、かえって邪魔でさえある。こういうインターフェイスが、CD-ROMっぽさ、マルチメディアっぽさを演出する以外に、何の効果も無い、という認識は、しかし、アダルトCD-ROMに限らず、CD-ROM業界全体に、まだ行き渡っていない(不幸な話だ)。未だに、そういうインターフェイスを付けることがサービスであり、面白さであり、CD-ROMである意味だ、と思っているメーカーは、本当に多いのだ。インターネットにしても、VRMLのような、3D空間のインターフェイスをマジメに便利なものとして捉えていたり、「フランキーオンライン」の、あの面倒なだけのインターフェイスが、まだ斬新なものと思われていたり、という風に、世界は、CD-ROMやインターネットを面白くない方向に持っていこうとして動いているとしか思えない状況にあったりもする。インターフェイス自体は、ただの手段であり、それ自体はコンテンツとは無関係ということが何故分からないんだろう(何か怒ってるな、俺)。どうしても、そういうインターフェイスがやりたいなら、そのインターフェイス自体が、内容に奉仕するものでなければ意味がないのに。
 で、話は戻る。では、何故「LIP TISSUE Vol.1」が面白くないのか。それは、素材ものを作る場合の、もっとも基本的な認識が欠けているからだ。つまり、素材を集めて編集する、という、その部分でしか、素材ものを面白くすることは出来ない、という認識。素材そのものの魅力は、その次でしかない、ということ(素材そのものはビデオに絶対かなわないのだから)。いい素材を集めたからといって、決して「面白い」ものにはならない。集めた素材を、どう見せるか(インターフェイスの話じゃないよ)、という部分にこそ、面白さを演出するポイントがあるのだ。だから、「フェラチオシーンを集めたCD-ROM」というだけでは弱い。「フェラチオシーンを集めて、それを使って、何か別のものを見せる」というような仕掛けが絶対に必要になる。例えばKUKIの「男優に訊け!」は、要は加藤鷹のからみシーンを集めただけの素材集だ。そして、それを「加藤鷹のテクニックを盗め」というようなコンセプトでまとめることで、テーマに意味を持たせている。そこまでなら、「LIP TISSUE Vol.1」と何も変わることはないのだけれど、この作品は、さらにその上に、加藤鷹vs10人のAV女優の闘い「A-1グランプリ」という仕掛けを持ってきて、ただのからみシーンに、いちいち、タカクラッチ、セクシーボムなどの技の名前を入れ、女優のプロフィールもプロレス的に書くなど、徹底した「見せ方」の仕掛けを施している。この作品が名作だとは言わない。しかし、少なくとも私は、「面白かった」。そういうことだ。

追記

 しかし、最大の問題は、アダルトCD-ROMの場合「抜ける」という部分の方が大事で「面白い」必要を感じていない人が多いということだろう。でも、「抜く」ということだけを考えるとCD-ROMは不利なメディアだぞ。ならば、「面白い」を考える方が建設的じゃない?


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